
産後の女性に寄り添い、心と体の変化を支える助産師のイメージ
産後うつはなぜ起こる?エクオールに注目した最新研究を助産師が解説
― 産後うつとエクオールを調べた研究からわかったこと ―
産後、理由もなく気持ちが沈む。
涙が出やすくなる。
不安が強くなり、眠れない。
産後にそんな気持ちになった経験のある方がいるかと思います。
「母親なんだからしっかりしなきゃ」
「みんな通ってきた道だから」
無理をして、産後うつになってしまった方も・・
でも、最近の研究から、産後の心のつらさには、はっきりと“体の理由”があることが、少しずつわかってきました。
今回は、2026年に日本女性医学学会の学会誌に掲載された「産後うつリスクとエクオール産生能」に関する研究を、一般の方にもわかりやすく解説しますね。
なぜ、産後の心のケアが注目されているの?
日本では、妊娠中から産後にかけての女性の死亡原因として、自殺が大きな割合を占めていることが問題になっています。
その背景にあるとされているのが、産後うつです。
産後うつは、決して特別な人だけがなるものではなく、出産後の女性の約10人に1人が経験すると言われています。
それなのに、「気持ちの問題」「育児のストレス」として片づけられてきた側面がありました。
近年、産後うつの予防や対処には、妊娠中から助産師が、産後は地域の保健師が重要な役割を果たしています。
長く周産期のケアに携わったものとして、今回の論文は大きな意義があると感じています。
この研究は、何を調べたの?
この研究では、妊娠後期から産後1か月までの女性を対象に、
- 体の中で「エクオール」という成分を作れるかどうかを尿で検査する
- エクオールを作れる人と作れない人の産後うつのリスクがどのくらいあるかを調べました。
エクオールは、大豆食品を食べたときに、腸内環境が整っている人の体の中で作られる成分で、女性ホルモンに似た働きをすることが知られています。
エクオールを「作れる人」と「作れない人」がいる?
実は、エクオールは誰の体の中でも作られるわけではありません。
日本人女性の場合、エクオールを作れる人は約4〜5割。
私の住む北海道は3割しかいません。
残りの人は、大豆を食べていても、体の中でエクオールを作ることができません。
この研究では、尿検査によって「エクオールを作れているかどうか」を確認しました。
研究でわかった、いちばん大切なこと
研究の結果、次のことがわかりました。
産後うつのリスクが高かった女性では、エクオールを作れる人が少なかったのです。
- 産後うつリスクが低かったグループ
→ 49.8がエクオールを作れていた - 産後うつリスクが高かったグループ
→ エクオールを作れていた人は33.3%
つまり、
エクオールを作れない体質の女性は、産後うつのリスクが高くなる可能性がある
ということが示されました。
年齢や出産方法、赤ちゃんの状態などでは2つのグループに大きな差がなく産後うつを引き起こしていたとは考えにくく、エクオールを作れる・作れないが強く関与している可能性が示唆されたため、この結果はとても注目されています。
どうして関係があるの?
出産後、女性の体では妊娠中にたくさん出ていた女性ホルモンが、一気に減ります。
この急激なホルモンの変化が、気分の落ち込みや不安につながると1要因と考えられています。
エクオールは、女性ホルモンのエストロゲンと同じような働きをするため、エストロゲンがが少なくなる時期に、その働きを補うような役割をすると言われています。
そのため、
- エクオールを作れる人
- エクオールを作れない人
で、産後の心の状態に差が出る可能性があるのではないか、と考えられているのです。
じゃあ、どうすればいいの?
この研究は、単純に「エクオールを飲めば産後うつが治る」という話ではありません。
でも、次のような新しい考え方を示しています。
- 産後うつは、体質やホルモンの影響を受けやすい
- 事前にリスクを知ることで、早めに支えることができる
- 食生活や、必要に応じたサプリメントの摂取が予防的なケアの一つになる可能性がある
ということです。
よくある質問 Q&A
Q1.産後うつはなぜ起こるのですか?
A.出産後に女性ホルモンが急激に減ることが、大きく関係しています。
妊娠中は、女性ホルモン(エストロゲン)が高い状態に保たれていますが、
出産をきっかけにその量は一気に下がります。
この急な変化に体と心がついていけず、
気分の落ち込みや不安、不眠などが起こりやすくなると考えられています。
産後うつは、気持ちの弱さではなく、体の変化に伴う反応です。
Q2.エクオールとは何ですか?
A.大豆食品から作られる、女性ホルモンに似た働きをする成分です。
エクオールは、大豆イソフラボンを食べたときに、
腸内環境が整っている人の体の中で作られる成分です。
女性ホルモンと似た働きをし、
ホルモンが少なくなる時期をやさしく支える役割があると考えられています。
Q3.誰でもエクオールを作れるのですか?
A.いいえ。エクオールを作れる人と、作れない人がいます。
日本人女性の場合、
エクオールを体の中で作れる人は約3〜4割とされています。
残りの人は、大豆を食べていてもエクオールを作ることができません。
これは体質や腸内環境の違いによるものです。
Q4.エクオールと産後うつには、どんな関係がありますか?
A.エクオールを作れない女性の方が、産後うつのリスクが高い可能性が示されています。
最近の研究では、
産後うつのリスクが高かった女性では、
エクオールを作れる人が少なかったことが報告されています。
これは、
ホルモンが急に減る産後の時期に、エクオールが体を支える役割をしている可能性
を示しています。
Q5.エクオールを飲めば、産後うつは防げますか?
A.必ず防げる、というわけではありません。
この研究は、
「エクオールを飲めば産後うつが治る」というものではありません。
ただし、
エクオールを作れない体質の女性にとって、
予防的なケアの一つになる可能性があることが示唆されています。
産後うつは、
ホルモン、体質、環境、心理的要因が重なって起こるため、
必要に応じて医療や周囲のサポートもとても大切です。
Q6.産後だけでなく、月経前や更年期とも関係がありますか?
A.はい。すべて「女性ホルモンが下がる時期」という共通点があります。
月経前(PMS)、産後、更年期は、
いずれも女性ホルモンが大きく下がる時期です。
そのため、
月経前に不調が出やすい人が、
産後や更年期にも同じようなつらさを感じることは珍しくありません。
エクオールは、
こうした一生を通じたホルモンの変化に関わる成分として注目されています。
Q7.不安が強いときは、どうすればいいですか?
A.ひとりで抱え込まず、早めに相談してください。
産後うつは、早めに気づいて支えることで、
回復しやすくなります。
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助産師
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産婦人科
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かかりつけ医
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家族や身近な人
「つらい」と口にすることは、弱さではありません。
それは、自分と赤ちゃんを守る大切な行動です。
おわりに
産後のつらさは、「気のせい」でも「甘え」でもありません。
体と心が、大きな変化に適応しようとしているサインです。
この研究をきっかけに、産後うつの予防的な介入や対処がもっと早く、もっと的確に行える社会になることを願っています。
そしてこれは、更年期へと続く一生の中でエストロゲンが減少した時のヘルスケアを考える第一歩でもあります。
