
子どもと大人が一緒に学ぶ、ライフステージをつなぐ健康教育
子どもの心を守るために、学校で「更年期」を教えるという選択
―思春期の健康教育では“月経の始まりと終わり”までを話す―
近年、子どものメンタルヘルスの問題が、学校現場でも大きな課題となっています。
不安、抑うつ、情緒不安定、問題行動、ネット依存――
その背景は一つではありませんが、家庭環境、とくに保護者の健康状態が影響することは、教育現場でも実感されているのではないでしょうか。
母親の更年期症状が、子どもの心に影響するというエビデンス
2026年、国立成育医療研究センターの研究により、母親の更年期症状と子どものメンタルヘルスとの関連が明確に示されました。
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「更年期症状のある母親の過程では子どものメンタルが悪化」
母親の更年期症状は5段階に分類され、
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軽症もしくは無症状:32%
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軽症〜中等度:41%
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中等度:17%
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中等度〜重度:8%
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重度:2%
さらに子どものメンタルヘルスをみると、母親が軽症もしくは無症状の場合を基準にしたとき、
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母が重度の場合
ネット依存傾向:6.38倍
抑うつ:3.9倍 -
中等度〜重度の場合
ネット依存傾向:2.12倍
抑うつ:1.23倍
と、有意にリスクが高まっていました。
抑うつだけでなく、問題行動、不注意、情緒不安定、不安なども、母親の症状が重いほど多くなる傾向が示されています。
ここで重要なのは、これは母親の更年期症状の影響は「家庭内の問題」ではなく、子どもの発達環境として社会全体が向き合うべき健康課題だという点です。
子どもは「理由が分からないまま」傷つく
更年期症状によるイライラや感情の揺れは、母親の意思とは無関係に起こります。
母親自身も更年期症状に振り回され悩やんでいます。
しかし子どもにとっては、
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急に怒られる
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理不尽に否定される
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家庭の雰囲気が不安定になる
といった体験として受け取られます。
子どもは「母が、更年期症状でつらい状態にある」と理解できないまま、「自分が悪いからだ」と内在化してしまうことがあります。
これは、発達途上にある思春期の心にとって大きな負荷となることは容易に想像がつきます。
なぜ学校で「更年期」を扱う必要があるのか
ここで重要なのが、学校教育の役割です。
更年期は、
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特定の家庭だけに起こる問題ではなく
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ほぼすべての女性が経験し
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家庭環境を通して子どもに影響する
“普遍的な健康課題”です。
であれば、私は学校という「すべての子どもが通る場」で、正しい知識を持つ機会を提供する意義は大きいと考えています。
月経の「始まり」だけでなく、「終わり」までを教える健康教育へ
現在の学校保健では、初潮や月経については主に思春期教育として扱われています。
保健体育の一環として、女子だけに話すということも昔からかわりありません。
しかし私は、月経の始まり(初潮)と、終わり(閉経・更年期)は、対で男女ともに教えるべきだと考えています。
理由は三つあります。
① 体の変化は「一生の流れ」であると理解できる
月経は突然始まり、突然終わるものではありません。
ライフステージに沿った自然な変化であることを知ることで、将来の体の変化に対する不安を減らすことができます。
② 母親世代の変化を「自分ごと」として理解できる
小学校高学年〜中学生は、母親がちょうど更年期に差しかかる年代です。
今までの私の活動の中で、相談を受けた方、学生さんなどから「母と取っ組み合いの喧嘩になった」「母に口答えをしたらお皿が飛んできた」「包丁を向けられたことがある」といった話を耳にすることがあります。
似たような話をSNSなどでも見かけます。
それは「自分が悪いからだ」「自分のことが嫌いになったんだ」「愛されていない」と受け取られやすく、心の深いところに残ります。
トラウマや自己否定感、対人不安につながることは、十分に考えられます。
しかし、知識があれば、「最近お母さんがイライラしているのは、自分のせいではない」と受け止めることができます。
③ 男女ともに学ぶことで、家庭・社会の理解が広がる
更年期は女性だけの問題ではありません。
父親、将来のパートナー、同僚として、男性も知っておくべき健康課題です。
男女共に学ぶことで、「支える側になる力」も育てることができます。
ここに親も参加することで、家庭の中で共有することができ理解を進めることができます。
母親も「我慢するもの」という思い込みから「子どものためにも相談しよう・受診しよう」と行動に移すきっかけとなると思います。
小学校高学年から始められる「ライフステージ教育」
提案したいのは、助産師が
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小学校高学年〜中学生とその父母を対象に
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初潮・月経・更年期・男性更年期までを
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ライフステージとしてつなげて伝える健康教育
を行うことです。
これは決して過度な医学教育ではありません。
「体は変わる」「困ったら相談していい」「医療がある」という安心の土台をつくる教育です。
それを、教師でもなく親でもなく医学的知識を持った専門職から伝えることに意義があります。
教育は、家庭を支える力になる
更年期症状への早期対応や相談支援は、女性本人だけでなく、子どもの心を守ることにつながると研究でも示されています。
学校での健康教育は、家庭では語りにくいテーマを“中立な立場”で伝えられる貴重な場です。
子どもが、
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理由を知らずに傷つく前に
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誤解を抱え込む前に
正しい知識に触れることは、将来の心身の健康だけでなく、家族関係の安定にも寄与します。
Q&A
Q1. なぜ「更年期」を学校の健康教育で扱う必要があるのですか?
更年期は多くの家庭で起こりうる、普遍的な健康課題だからです。
研究により、母親の更年期症状が強い場合、子どもの抑うつや不安、情緒不安定、ネット依存傾向が高まることが報告されています。学校で正しい知識を伝えることで、子どもが家庭内の変化を自分のせいと捉えず、安心して成長できる環境づくりにつながります。
Q2. 更年期の話は、子どもにとって早すぎませんか?
医学的な詳細を教える必要はなく、「体は一生の中で変化する」という視点を伝えることが重要です。
小学校高学年から中学生は、保護者が更年期を迎える時期と重なります。年齢に応じた表現で伝えることで、不安を与えるのではなく、理解と安心を育てる教育になります。
Q3. 更年期教育は女子だけに必要な内容ですか?
いいえ、男女ともに学ぶ意義があります。
更年期は女性の体の変化ですが、家族や社会で支える側になる男性にとっても重要な健康課題です。男女ともに学ぶことで、将来のパートナーシップや職場での理解、思いやりのある関係づくりにつながります。
Q4. 学校で更年期を教えることは、家庭の問題に踏み込みすぎではありませんか?
更年期は個別の家庭問題ではなく、社会全体で共有すべき健康課題です。
学校は、家庭では話しにくいテーマを中立的に伝えられる場所です。正しい知識を持つことは、家庭を責めることではなく、子どもを守るための予防的な教育といえます。
Q5. 更年期を含めた健康教育で、子どもにはどのような力が育ちますか?
体の変化を理解し、困ったときに相談できる力が育ちます。
「体は変わる」「不調には理由がある」「医療や相談先がある」と知ることは、生涯にわたる健康リテラシーの基盤となります。これは、思春期だけでなく大人になってからも役立つ力です。
Q6. 助産師が学校で健康教育を行う意義は何ですか?
助産師は、思春期から更年期までを一貫して支える専門職です。
月経の始まりと終わりをライフステージとしてつなげて伝えられることは、助産師ならではの強みです。医療と生活の両面から伝えることで、子どもにも理解しやすい健康教育が可能になります。
おわりに
更年期は、「大人の問題」ではなく、子どもの育ちにも関わる健康課題です。
学校がその橋渡し役となることで、子どもたちは「変化のある体と、どう付き合っていくか」を学ぶことができます。
それは、生涯にわたる健康リテラシー教育の第一歩でもあります。
子どものメンタルヘルスを取り巻く課題は、家庭だけで解決できるものではなく、学校・地域・医療が連携して支える必要があります。
母親の更年期症状と子どもの心の状態との関連が示された今、学校での健康教育に「更年期」という視点を取り入れることは、新しい予防的アプローチの一つと考えられます。
助産師による出前授業・教職員研修・保護者向け講演など、学校現場の実情に合わせた形での実施が可能です。導入をご検討の際は、お気軽にご相談ください。
