管理職は更年期の部下にどう対応すればいいのか
― セクハラを恐れず、離職を防ぐための現実的な対応 ―
はじめに
更年期の不調を抱える部下に対して、「何か声をかけた方がいいのでは」と感じながらも、実際には何も言えずに時間だけが過ぎてしまう──
そんな経験を持つ管理職は少なくありません。
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セクハラにならないだろうか
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年齢や性別の話題に触れてよいのか
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どこまで関わるのが正解なのか分からない
この迷いは、管理職としてとても自然なものです。
しかし現場では、その「迷っている間」に状況が悪化し、結果として離職に至ってしまうケースも起きています。
この記事では、管理職が更年期の部下にどう対応すればよいのかを、
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管理職が更年期の課題に向き合う必要性
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うまくいかなかった失敗事例
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管理職が迷わないための判断軸
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実際にうまくいった2つの具体例
という流れで整理します。
管理職が更年期の課題に向き合う必要がある理由
更年期は、個人の私的な問題だけではありません。
ホルモン変化や自律神経の乱れによる体調変化は、
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集中力の低下
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判断力の低下
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感情の揺らぎ
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慢性的な疲労
として現れ、業務の質やチーム全体の安定性に影響します。
管理職の役割は、部下の人生に踏み込むことではなく、業務とチームを守ることです。
その意味で、更年期への対応は「一時的な配慮」ではなく、実はマネジメントの一部だと言えます。
更年期の部下に「何も言えない」管理職が抱える不安
現場で多くの管理職から聞かれるのが次のような戸惑いです。
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声をかけたいが、何と言えばいいか分からない
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本人を傷つけてしまうのではないか
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セクハラだと思われないだろうか
このような不安から、「本人から言ってくるまで待とう」「業務の話だけしていれば安全だろう」と距離を取ってしまうことがあります。
しかし、何もしないこと で気が付いたら大事な部下から退職届が出されるという事態になりかねません。
実際にNHK「更年期と仕事に関する調査2021」によると男女の更年期世代の1割近くの人が更年期の症状や更年期障害で離職をしているのです。
【失敗事例】
何も言えなかった結果、離職につながってしまったケース
40代後半の女性社員Dさん。責任感が強く、これまで安定して働いてきました。
しかしある時期から、
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欠勤が増える
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業務スピードが落ちる
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表情が暗くなり、会話が減る
といった変化が見られるようになりました。
管理職も異変には気づいていましたが、更年期や体調の話題に触れることをためらい、「何も言わない」という選択をしました。
業務上の注意や指摘は行いましたが、負荷や体調について話し合う機会はありませんでした。
結果としてDさんは、「迷惑をかけている」「もう限界だ」と感じ、退職を選びました。
管理職とチームには、「何かできたのではないか」という後悔だけが残りました。
なぜ管理職は「どう動けばよいか分からない」のか
この失敗事例で問題だったのは、管理職の姿勢や思いやりではありません。
管理職のかかわり方として「どこまでがOKで、どこからがNGなのか」その判断軸を学ぶ機会がなかったことです。
そこで必要になるのが、管理職が迷わず行動するための、明確な判断基準です。
セクハラになるのではと、大事な1歩を踏み出せない管理職が多いのです。
更年期対応はセクハラになるのか?管理職が迷うポイント
結論から言うと、業務を軸にした関わりであれば、セクハラにはなりません。
避けるべきなのは、
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年齢
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性別
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更年期・ホルモン
といった個人属性に直接触れることです。
一方で、
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業務量
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負荷
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進め方
について話すことは、正当なマネジメント行為です。
そこで関わり方として「やっていけないこと」と「やっていいこと」の線引きをご紹介しますね。
管理職が「これはやっていい」と分かるOK/NG一覧
❌ NG対応(やってはいけない)
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「更年期?」「年齢的にきつい?」と決めつける
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医療や私生活の話題に踏み込む
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本人の努力不足として評価する
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何も言わずに放置する
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一方的に業務や役割を外す
⭕ OK対応(これはやっていい)
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業務の負荷や進め方について話す
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調整できる選択肢を提示する
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一時的・可逆的な業務調整を行う
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個人情報を出さず、全体の業務調整として説明する
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人事・産業保健につなぐ
【実例①】
声かけと業務調整で、本人もチームも安定したケース
(研修は行われていない一般的な職場)
① 背景・職場の状況
50代前半の女性社員Aさん、経験豊富で、部署の中心的存在でした。
数か月前から、
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ミスが増える
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会議での発言が減る
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疲労感が抜けない様子
といった変化が見られました。
② 管理職が意識したこと
管理職は、Aさんは一般に言う更年期かもしれないが更年期のことはよくわからないし、ここでは「理由を聞かない」「診断しない」と決めました。
体調ではなく、業務の変化だけを見る。
それを徹底しました。
③ 実際にかけた声(セクハラにならない)
「最近、この業務の負荷が高くなっているように見える。
今の進め方で無理がないか、一度整理してみない?」
年齢・性別・更年期という言葉は使っていません。
④ 行った仕事の調整
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業務を分割
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納期を一部調整
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確認作業をチームで分担
チームには「全体の業務調整」として説明しました。
⑤ 結果
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ミスが減少
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表情が安定
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チームの不満もなし
Aさんは「無理を隠さなくてよかった、仕事を辞めようか迷っていましたが辞めなくてすみそうです」と話しました。
【実例②】
企業全体で研修を行ったことで「更年期」という言葉が使えたケース
(健康経営を推進している企業)
① 背景・職場の状況
この企業では、
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経営陣
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管理職
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一般職員
全員を対象に、性差による健康課題(更年期・月経・男性更年期)研修を実施していました。
② 管理職自身の変化
管理職Bさん(50代男性)は研修を通して、自分自身の体調変化にも気づきました。
「自分も更年期かもしれない」この気づきが、部下への関わりを変えました。
③ 実際にかけた声(研修があるから使えた言葉)
C子さんより、「ホットフラッシュがひどく業務に集中できず、仕事のパフォーマンスが下がってしまいました。皆さんにご迷惑を掛けたくないので離職を考えています」と相談されました。
「研修でも話があったけれど、更年期の影響で仕事がしんどくなる時期もあるよね。今の業務、一度整理してみようか」と話しました。
これは、研修という共通理解があったからこそ成立しました。
④ 受診と治療につながった支援
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業務を一時調整
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勤務時間内で受診できるよう配慮
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治療を受けながら就業継続
⑤ 結果
Cさんは離職せず、部署には「体調について遠慮なくを話してもよい」という安心感が広がりました。
まとめ:管理職を守るためにも、企業研修が重要
ここまで見てきたように、管理職が安心して関われるかどうかは、「知っているかどうか」で大きく変わります。
更年期対応は、個人の勇気や経験に任せるものではありません。
企業として、管理職が「やっていい」と分かる状態をつくること。
それが、離職を防ぎ、人も組織も守ることにつながります。
Q&A
Q. 管理職が更年期の部下に声をかけてもセクハラになりませんか?
A. 年齢や更年期に触れず、業務の負荷や進め方に焦点を当てれば、セクハラにはなりません。
Q. 更年期かどうか、管理職が判断する必要はありますか?
A. 判断は不要です。仕事への影響が出ているかどうかを見ることが管理職の役割です。
Q. 何もしないことは問題になりますか?
A. はい。結果として離職につながるケースもあり、管理職・組織双方に後悔が残ります。
管理職向けQ&A(追加)
Q1. 管理職は、更年期の部下にどこまで踏み込んでいいのですか?
A. 体調や年齢には踏み込まず、業務の負荷・進め方・働き方について話すのが適切です。診断や原因の特定は管理職の役割ではありません。
Q2. 更年期かもしれないと感じたとき、管理職は受診を勧めてもいいですか?
A. 「更年期だから」と決めつけず、「仕事に支障が出ているなら専門家に相談する選択肢もある」と伝える形であれば問題ありません。
Q3. 更年期対応のために業務を調整すると、他の社員から不満は出ませんか?
A. 個人の事情を説明せず「全体の業務調整」として行えば、不満は最小限に抑えられます。一時的・可逆的な調整が重要です。
Q4. 管理職自身が更年期の可能性を感じている場合、マネジメントに影響しますか?
A. 影響する場合があります。だからこそ、管理職自身が更年期を学ぶことで、部下への理解と適切な対応がしやすくなります。
Q5. 更年期への配慮は、特別扱いになりませんか?
A. 特別扱いではありません。業務パフォーマンスを維持するためのマネジメントであり、誰にでも起こり得る健康課題への対応です。
Q6. 更年期の話題を職場で出すこと自体がリスクではありませんか?
A. 企業全体で研修や共通理解があれば、リスクは下がります。個人任せにせず、組織として扱うことが重要です。
Q7. 更年期対応に取り組まないと、企業にはどんな影響がありますか?
A. 離職、生産性低下、管理職の疲弊につながります。結果として、企業全体の人材損失リスクが高まります。
人事・健康経営担当の方へ
性差による健康課題、特に更年期は、離職やパフォーマンス低下に直結する健康経営上の重要課題です。
制度だけでなく、知識共有と職場の理解を進めることで、持続可能な組織づくりが可能になります。
【著者プロフィール】
健康経営における性差と更年期課題を専門とし、医療と職場をつなぐ視点で研修・講演を行う助産師。また更年期世代を支える専門家として、臨床・教育・講座活動を行う。医療安全とエビデンスに基づく情報提供を重視し、「選ばない自由」も含めた意思決定支援を専門としている。

